東京都視覚障害者生活支援センター主任生活支援員(歩行訓練士) 中村亮

毎日新聞の報道によると、1994年度以降駅のホームから転落して死亡あるいは重傷を負った視覚障害者は47人にものぼるそうです。先月の6日にも川越で視覚障害者がホームから転落して亡くなっています。

そこで、このような転落事故をどう防げばよいかを歩行訓練の指導者としての経験も踏まえて考えていきたいと思います。

もちろん歩行訓練を受けたことがない人にも可能な方法であることを前提とします。

まず、ホームから転落しない最も有効な方法を考えてみます。それは、ホームを「単独で」歩かないことです。ホームから転落する人は、何らかの理由で方向を見失ったり、勘違いをして転落していると考えられます(私が指導した人の中には、ホームを下り階段だと勘違いした人がいました)。これを防ぐには、駅員やその他一般の人に誘導をしてもらうことが最も有効であると言えます。

特に、駅にお願いすると、乗車駅では改札から乗車までを、降車駅では降車ホームから改札までをそれぞれ誘導してくれます。

しかし、この方法には大きなデメリットがあります。効率が非常に悪く、面倒であるという点です。乗車・降車駅間で連絡・調整が必要なので、場合によっては10分程度待つことになります。つまり、本来乗れていたであろう電車の1〜2本あとの電車に乗ることになるのです。さらに、駅員にこちらからその都度お願いしなければなりませんし、人の手を煩わせたくないという思いが強ければ、利用しづらい方法でもあります。

だからといって、効率性を優先しすぎるとただでさえ危険なホームでは、安全性が低下するおそれがあります。それに加え、「急いでいた」「降りる駅を間違えた」「初めての駅だった」といった事情があると、平常心が保てずに、危険性は格段に上がってしまうこともあります。このように、物理的な要因に加え、心理的な要因によって危険を増すホームの移動は、慎重すぎるくらいがちょうどよいと考えられます。

以上を踏まえ、それでも単独で歩かなければならない方・より安全な方法を知りたいという方は、以下の点に注意して歩くことをお勧めします。@ホームで歩く距離はできるだけ短く、Aスピードは普段の半分程度、Bおかしいと感じたら動かずにすぐ声をかける。

これは、歩行訓練を受ける人にも繰り返し伝えることでもあります。また、白杖は脇の下に入るくらいの長さのものを利用し、前方に伸ばして(杖先が2歩程度前になります)歩くとより安全性は高くなると思います。

以上のように、できるだけホームは単独では歩かないこと(特によく知らない駅や初めての駅)、歩く場合は最小限にとどめてゆっくり歩くこと、周りの人の協力を仰ぐことが一般的に最も有効であると言えます。ホームドアが設置してある駅が少ない現状で「万が一」を起こさないためには、少し慎重すぎる程度が当たり前とする方が良いのではないかと思います。


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