社会福祉法人山口県盲人福祉協会理事長 舛尾政美

著者近影

10月1日から障害者虐待防止法が施行された。ちょうどこれに合わせるかのように当協会に1つの問題が発生した。

光明園の入所者Aさんは80歳を超える高齢者で北九州に息子夫婦と同居していたが、視覚障害があり下関市で20年以上マッサージ業を営んでいた。5年ほど前に妻が病気になり息子と同居したが通帳を預かった息子が預金を勝手に引き出すようになった。Aさんは息子に通帳返却を求めたが息子はそれに応じない。Aさんは市の相談室の弁護士に相談した。弁護士は通帳の再発行を勧めた。そこでAさんは金融機関に再発行の手続きをしたが、金融機関はそのことを息子に伝えたので、息子はこれに反対を唱えたため事は進まなかった。

それだけに止まらずAさんは暴力を受けるやら、電話を使えなくされるやらで、一人で家出をすることを考え行動を起こした。しかし家出をしてうろうろしているところを発見され、家に連れ戻された。

先月再びAさんは家出を実行した。当協会を頼って下関駅まで決死の覚悟で来たという。下関駅からの連絡を受けて私共は下関駅で本人と会い、そのまま光明園に同行した。翌日私は息子にAさんを光明園に預かっている事を知らせた。数日後息子がAさんを訪ねて光明園に来た。Aさんと息子と私共は話をした。息子は家に帰るように勧めたが本人は光明園で世話をしてもらい たい、帰らないと言った。最後に息子も本人の言うことに同意し帰宅した。

その2週間後、息子と娘が行政書士なるものを伴って光明園に来た。私共は関係職員と共に本人を交え一行と話し合いを始めた。一行は始めから息子の家に戻るように迫り「帰れ」「帰らない」と押し問答になり険悪な状態になった。やむなく園長は110番通報という手段を取った。間もなく警官が6名到着した。警官はその場にいた一人一人に話を聞いた。私共は本人の意思を尊重し息子たちを散開させるよう求めた。しかし、一行は聞き入れず約5時間にわたって「家に帰れ」「帰らない」の押し問答が続いた。警察は17時を過ぎた頃、さらに刑事を3名増員して息子たちの散開を求めた。3名の増員が功を奏したものか、ようやく息子たちは園から出て行った。

今後も家族はAさんを家に連れ戻そうと同じような事を繰り返すであろうが園としてはあくまでも本人の意思によりA さんが園で生活出来るように全力で支援したいと考えている。私としてはこのケースは障害者虐待防止法に例示されている擁護者による虐待に該当すると考えている。こうした例は春光苑においてもこれまで時々見られた事で、全国ではかなりの数に及んで いるであろうと思われる。「利用者、入所者の人間らしい尊厳ある存在の回復を目指す」が法人の基本的な考えである。これが 私達のいわば旗である。今こそいよいよこの旗をより高く掲げなければと思う。

 

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