ボランティアに感謝状を贈呈する岩上常務理事・事務局長

ボランティアに感謝状を贈呈する岩上常務理事・事務局長

 

日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)は6月21・22の両日、全国から二百数十人の関係者を集め、和歌山駅に隣接するホテルグランヴィア和歌山において、「第60回 全国盲人福祉施設大会」を開催しました。

今大会は、煖エ秀治理事長が就任して最初の大会でしたが、子息がガンで病状が悪化したため、やむを得ず理事長欠席という非常事態となりました。そこで、事務局長を兼務する岩上義則常務理事を中心に、舛尾政美・煖エ秀夫両常務理事が急遽任務を分担・代行して、事なきを得ました。

初日の6月21日は午後から、まず「障害者総合支援法とサービスの費用負担を考える -- 5部会全体で福祉の未来にスクラムを組む」をテーマに、3時間かけて意欲的に研修会を行いました。

ようこそ和歌山へ。

冒頭に「障害者総合福祉法が実現しなかった事情と今後」と題して、弁護士でもある竹下義樹日本盲人会連合(日盲連) 会長が「障害者権利条約」から説き起こして、自身が弁護団長の障害者自立支援法違憲訴訟団と国との基本合意があるにも拘わらず、なぜ障害当事者団体の願いを踏みにじるような形で障害者総合支援法が成立したのかを、45分間熱を込めて講演しました。

竹下日盲連会長

竹下日盲連会長

それに補足する形で、日本ライトハウスの木塚泰弘理事長が、「人権の上に尊厳がある」と解説を加えました。

次いで、「障害者サービスと利用負担」と題して、日本点字図書館の田中徹二理事長が45分間にわたり、図書館法を引き合いに出して「サピエ図書館は無料であるべきだ」との持論を展開しました。

それに対して、岩手県立視聴覚障がい者情報センターの佐賀善司氏は、「サピエ図書館にアクセスして、ダウンロードしながら逐次再生するストリーミングまでは無料にすべきだと思います。しかし、そっくりダウンロードすると、そのコンテンツを所有できるので、その場合は、本を買うのと同様に有料化していいのではないでしょうか」とコメントしました。

その後の質疑応答では、会場から「障害者総合福祉法が実現しなかったのは、日盲連の見通しが甘すぎたからではないか」との痛烈な批判が出ました。

これに対して竹下会長は、「日盲連への批判はこれからも続けて欲しい」と前置きしながら、「障害者総合福祉法施行までのつなぎ法が、一昨年(2010年)12月に可決 ・成立しましたが、これがなければ同行援護は実現しませんでした。つなぎ法が成立していなかったら、障害者総合福祉法が成立する見通しでもあったのでしょうか」と反論。生々しい政府による障害者団体の切り崩しや訴訟団内部での激しい議論などがあったことなども交えながら、極めて理路整然とした論理で、日盲連の現実的判断に対する理解を求めました。

研修会の後は、点字出版、情報サービス、自立支援施設、生活施設、盲人用具の5つの事業部会に分かれて会議を行った後、夕刻から交流会が賑やかに行われました。

交流会では、岩上事務局長の肝いりで、研修会でコメントした佐賀氏が飛び入り出演して、各種のハーモニカを駆使した超絶技巧の演奏を楽しいトークとともに披露し、「来年も出てくれ!」とのアンコールを受けていました。

2日目の6月22日午前9時からは、「介護保険の現状とこれから」と題して厚労省高齢者支援課の懸上忠寿課長補佐が、1時間半の講演を行いました。

続いて開かれた式典では、ボランティアと永年勤続職員の表彰、援護功労者への感謝状贈呈が行われました。

続いて「大会アピール」を和歌山県視覚障害者福祉協会副会長の北口豊氏が、「大会決議」を(株)ラビット代表取締役の荒川明宏氏(盲人用具副部会長)が読み上げ、 満場一致で採択されました。

その後、厚労省、和歌山県、和歌山市長、和歌山県社協、日盲連、全視情協理事長等による来賓祝辞が行われました。市長の祝辞では「ご紹介いただきました和歌山市長の大橋建一でございます。代理ではなくて本物でございます」との挨拶に、会場は大爆笑に包まれました。

大橋和歌山市長

大橋和歌山市長

続いて市長は、かつて毎日新聞に勤めていた頃の先輩がこの大会に参加しているので、昨夜、交流会が終わる頃、その先輩と1時間半ほど旧交をあたため、東日本大震災の後で、被災した障害者を捜し出すのが個人情報保護法が壁となり難しかったこと。点字離れが進んで、点字出版所が苦況に立っていること。中途失明者によるあはき離れで、視覚障害者のあはき養成施設も 経営が困難になっている現状などを聞いたことなどを、ご自身の母親がかつて点訳奉仕者であったことなども引き合いに出しながら語りました。

その後、自宅に帰りくつろいでいると深夜0時43分、洪水警報が発令されたこと。道路が冠水しており、いつもと違う道を車高の高い消防署の車で市役所に向かい、そのまま朝を迎えたことなどをご自身の言葉で語り、参加者の共感を得ていました。

最後に特産の新ショウガを使った炭酸飲料「生姜丸しぼり和歌山ジンジャーエール」の宣伝をちゃっかり行って挨拶を締めくくり、盛大な拍手を受けました。

式典の締めくくりでは、舛尾常務理事が「来年日盲社協は60周年を迎えます。節目の大会は東京で開催する不文律がありますので、来年の61回大会は東京で開催します」 と宣言して、正午ちょっと過ぎに閉幕しました。

 

アピール

和歌山県視覚障害者福祉協会北口副会長

和歌山県視覚障害者福祉協会
北口副会長

日本盲人社会福祉施設協議会が日本ライトハウスの創設者である岩橋武夫先生の提唱により、1953年(昭和28年)に結成されてから来年で60周年を迎えます。創設にあたり、岩橋先生はその目的を“日本盲人会連合と車の両輪のごとく相互に助け合いつつ、各施設間の連絡融和を図り、盲人文化の向上と盲人福祉の達成に貢献する”と高らかに謳い上げました。当初32施設だった加盟団体は半世紀を越える活動を経て、世界に類を見ない5部会200余団体に上る組織へと発展し、今日も創設時の理想を掲げ て活動を展開しています。

日盲社協の創設には、1949年(昭和24年)の身体障害者福祉法と、1951年(昭和26年)の社会福祉事業法という今日の社会福祉の基盤となる法制度の成立がありました。ところが、現在、国が今後の障害者福祉の柱として成立を図っている「障害者総合支援法案」は、2年2ヶ月にわたる白熱した議論を経て、昨年8月、国内を代表する障害当事者らで作る「総合福祉部会」が「骨格提言」を策定したにもかかわらず、「障害者自立支援法」の焼き直しに過ぎず、大きな失望と反対を招いています。同法案は、 難病者など対象者の拡大や「重度視覚障害者の同行援護」が盛り込まれるなど評価される面もありますが、「障害程度区分」「支給の決定」「就労の促進」といった実質的な課題は、附則に3年以内に決定するとして先延ばしにされてしまいました。日盲社協は当事者団体と連携して、残された課題が少しでも是正されるように、全力を尽くさなければなりません。

また、視覚障害者の生活・職業・情報等、あらゆる課題に関わる点字出版、情報サービス、自立支援、生活施設、盲人用具の各部会では、上記の障害者総合支援法に対する「総合福祉部会」の「骨格提言」の実現をはじめ、東日本大震災で露呈した災害時における視覚障害者への情報提供体制の整備、選挙公報の法的義務化の実現、同行援護と国による代読・代筆支援の養成研修の実施、盲導犬訓練の環境改善と盲人ホームへの支援、養護盲老人ホームへの入所要件の改善、日常生活用具助成における地域格差の撤廃などを求めていますが、こうした個別の課題についても改善を実現しなければなりません。

結成60周年を控えた今こそ、日盲社協加盟施設は改めて結成時の初心に立ち返り、多種多様な視覚障害者福祉施設が一致協力して、視覚障害者福祉の充実発展に努め、全国の視覚障害者一人一人の自立と社会参加の実現に向けて全力を尽くすことを誓います。

以上、宣言します。

 

平成24年6月22日
第60回全国盲人福祉施設大会
社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会

 

大会決議

大会決議を読み上げる荒川盲人用具副部会長

大会決議を読み上げる
荒川盲人用具副部会長

1.一般の選挙公報は、国政等の選挙において公職選挙法でその発行が義務付けられていますが、視覚障害者には、「選挙のお知らせ」のレベルの発行に止まっています。 選挙公報は、国民の基本的人権としての参政権行使のために、また、知る権利を保障するものとして極めて重要な情報源であると認識しています。ゆえに、点字版・音声版「選挙のお知らせ」を「選挙公報」として発行するよう強く要望します。

1.録音図書製作機がデジタル化の進展を背景に目覚ましい発展を遂げているのに対して、点字図書製作機器の開発が大きく立ち遅れているのが現状です。加えて、従来の点字製版機や印刷機は、メンテナンスさえままならない危機的状況にあります。一 方では、点字教科書、各種点字図書、選挙公報等、点字でなければならない発行物が多く存在しています。そこで、これらを安定・供給するために、点字製作機器の開発費の予算化と当面の危機を切り抜けるための保守・管理費を点字出版施設に補助されるよう強く要望します。

1.災害時における視覚障害者の支援を迅速に行うため、「施設機能強化推進費」の総合防災対策強化事業内容を見直していただきたいと思います。そして、視覚障害者情報提供施設が福祉避難拠点として活動できるよう、施設機能強化推進費の大幅な増額など、必要な予算措置を講じていただきますよう要望します。

1.視覚障害者の知る権利を保障し、個人情報が保護されるよう、視覚障害者情報提供施設の陣容を高める必要があります。そこで、情報提供施設の設置・運営基準を改正し、適切かつ迅速に情報提供(代筆・代読サービス)ができるスキルを有する『情報支援員』を配置(増員)していただくよう要望します。

1.養護盲老人ホームの入所要件の改善を要望します。

1.同行援護事業の充実を要望します。

1.新制度において、情報障害とされる視覚障害者の障害程度区分(障害支援区分) が、障害者総合福祉法の骨格提言に示されているような、障害者のニーズを反映した区分として、適正に判定されることを要望します。

1.より質の高い盲導犬を育てるため、候補犬の訓練活動においても公共交通機関や公共施設等で、盲動犬訓練士が訓練活動を実施できるよう「盲導犬に準ずる扱い」をしていただきたいと思います。また、補助犬使用者の公共施設等の利用がスムーズにできるよう、一般社会への身体障害者補助犬法の一層の周知を要望します。

 

平成24年6月22日
第60回全国盲人福祉施設大会
社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会

電車

 

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