熱気溢れた「点字サイン監修実務研究会」―― 研究会の成果をいざ実践へ ――

点字出版部会「点字サインJIS規格普及促進委員会」委員長 田中 正和


点字サイン監修実務研究会の様子

日盲社協点字出版部会では、点字サインの監修や点検が行える人材を育成するため、「点字サイン監修実務研究会」を2013 年2月8日(金)、日本ライトハウス情報文化センターで開催した。全国各地で監修が受けられる体制を整備するため、情報サービス部会の会員施設にも呼びかけ、21施設43名の参加でたいへん盛り上がった。

点字サインとは、手すりや室名の点字表示、駅やトイレの触知案内板等で、視覚障害者が手引きなしで目的地へ行ったり施設を利用したりする上でたいへん重要な情報となるものである。1994年の「ハートビル法」や2000年の「交通バリアフリー法」の制定でハード面の整備が大きく進んだ反面、誤りの多い点字サインがたくさん出て来て、全国紙の1面で取り上げられたりして大問題となった。

点字に命をかけている点字出版部会では、こうした誤りを放置できないとして、点字サインワーキング・グループを立ち上げ、利用者アンケート(2001年実施、回答数209名)を基に「視覚障害者の安全で円滑な行動を支援するための点字表示等に関するガイドライン」を2002年にまとめた。

その後、ガイドラインがたたき台となって2006年には「点字の表示原則及び点字表示方法」、2007年には「触知案内図の情報内容及び形状並びにその表示方法」のJIS規格が制定され、委員会の役割もめでたく終える予定だった。

しかし、依然としてJIS規格に沿っていない触知案内板があったり、誤りのある点字サイン等が各地で見受けられ、いよいよ専門家による監修や点検が最後の防波堤であることが明らかになってきた。

ちなみに、視覚障害者に「選挙公報」を点字や音声で届ける取組では、全国の点字出版所や視覚障害者情報提供施設が選挙情報支援プロジェクトを結成し、総務省や都道府県の選管に働きかけ、今日では幾つかの問題等があるものの、ほとんどの都道府県で視覚障害者に「選挙公報」の点字版や音声版が配布されるという状況を切り拓いてきた。

点字サインもそのように、@全国の視覚障害者情報提供施設で監修を受けられるように監修者を養成することと、A監修が制度化されるよう、国や地方自治体に働きかけていく必要がある。

今回の研究会は、2011年12月に行った「点字サイン基礎研修会―― JIS規格と監修業務を学ぶ」を受け、より実践的に研 修を深める場として位置づけて開催したものである。以下、その研究会で取り上げた3つのテーマの報告である。

 

触知案内図の監修はじめの一歩

日本点字図書館 和田 勉


点字サイン監修実務研究会の様子2

触知案内図の監修に大切なことと問われたら、何を思い浮かべるだろう? 分かりやすい触図の条件を深く理解していること も大事だし、JIS規格を知っていることも大切だ。だが、点字サインならではのポイントとして、点字とは無縁の「サイン業者」が作成したグラフィック原稿を触読できる状態に仕上げるための技術がある。

具体的に言えば、A3判をはるかに超える大きなサイズになる触知案内図の原稿を縮小された寸法で渡された時に、これを原寸サイズまで拡大し、立体コピーを複数枚使った校正紙を作りあげる技術である。

これができないと、晴眼者が目視による校正をするしかないわけだが、点字サインの校正は点字図書の校正とは似て非なる面がある。例えば点字自体の寸法が一部だけ狂っているような時があり、目だけで追うことには限界がある。触読者による校正をかけるべきなのである。

そこで今回の実務研究会では「触知案内図の監修はじめの一歩 ―― 送られてきた原稿を原寸大に仕上げるコツ」というタイ トルのワークショップを企画した。

ここで学ぶのは、@原寸寸法に拡大コピーするための算出方法、A原寸でコピーした原稿を立体コピーに焼いた後、貼り合わせる技法である。特に後者について、貼り合わせることに技術などあるだろうかと思われるかもしれない。しかし、触読するためには表からテープを貼って、つなぐわけにはいかない。裏から貼って、しかも絵柄がずれないようにピタリとつなぐには、ちょっとしたコツがいる。

こうした技術を伝えるには、実際に手を動かすのが何よりである。というわけで、会場は1グループ5〜6名が座れるように机をまとめ、それぞれの机の上には大きなカッターマット、セロテープ、定規、電卓などが置かれた。課題は、A3サイズの原稿から65cm角の立体コピー校正用紙を作ること。まず、電卓で「仕上がり寸法」÷「原稿の実測値」を計算し、およそ260%拡大する必要がある図であることを確認。その場で人数分の立体コピーを焼くことは困難であることから、あらかじめ膨らませておいたA4サイズの立体コピー6枚を配布した。

その後は、実際に貼り合わせの作業に入った。事前にレジュメに沿った説明があったとは言え、聞くとやるとでは大違いということを参加者全員が実感したようだ。各テーブルには、2名程度ずつ触読者が参加していたが、全員でああでもない、こうでもないと議論しながらの作業となった。それでも何回かつなげるうちに、コツを掴んできた様子がうかがえた。完成した図は、高田馬場駅構内図。まちかねた触読者が図に指を走らせる。

およそ通常の点字講習会とは様子を異にするワークショップではあったが、昼食後の眠気を吹き飛ばし、後に続く専門的な議論の前に参加者を活気づかせる導入部としての役割は果たせたようだ。

 

案内図ビフォー・アフター

名古屋ライトハウス点字出版部 小川 真美子


プログラム「案内図ビフォー・アフター ―― 事前課題から学ぶ監修のポイント」では、参加者に事前の課題提出をお願いした。

看板業者から架空の「肥後橋公園駅案内図」の監修を依頼されたという想定で、その課題図に修正を加えていただいた。

課題図

寄せられたどの監修結果からも触知案内図の基本ガイドラインである「JIS T 0922」と課題を照らし合わせ、「どこをどう直したら触って分かりやすい触図、文章になるか」と検討された様子がうかがえた。

当日は、委員会が選考した4施設の代表者から「課題をどんな風に修正したか、どんなところが難しかったか」について発表してもらった。参加者全員に、4施設の監修結果を立体コピーで配布していたため、晴眼者も触図に指を走らせる光景が見られた。「目だけでは気づかないことも、触覚を使えば分かることがある」という基本的な事柄ではあるが、晴眼職員にはぜひとも理解・実行していただきたいポイントの一つだった。

発表後、委員会が作った監修例をこれまた立体コピーで配布し、「現在地記号は」「点字と触知記号の距離は」「凡例の使い方」など、監修ポイントごとに解説をした。

「監修例」がたった一つの正解ではない。点訳と同じように、その人・その施設で若干の個性が表れる部分もあるはずだ。ただ、JIS規格で示されたポイントを参考にすれば監修結果は似たり寄ったりになるはずで、今回の提出課題を見てもそうであった。

そして、触って分かりやすい点字サインには、触読者による監修も外せない。民間のサイン業者は、点字や「視覚障害について」明るくない現状もあるので、情報サービス部会・点字出版部会の施設団体が専門分野に点字サイン監修を加え、そのために今研究会で積んだ経験を活かしていただくことが委員会の掲げる理想のひとつでもある。

 

ホーム可動柵の表示、各地の事例から

日本ライトハウス点字情報技術センター所長 福井 哲也


ホーム可動柵の表示例

駅ホームからの転落事故をなくす切り札というべきホーム可動柵。その普及は遅々たる歩みではあるが、最近ようやく新規路線で導入されたり、既存の駅でも設置工事のニュースを時折聞くようになった。

ホーム可動柵には、各扉の脇に点字サインが取り付けられることが多い。扉の脇というのは、階段の手すりの端と同様、視覚障害者が比較的見つけやすい場所と考えられるが、今回少し調べてみたところ、取り付け位置や表示内容に多くのバリエーションがあることがわかった。

まず、取り付け位置であるが、扉そのものではなく、そのすぐ脇の戸袋に当たる柵の前面(垂直な面)に付けられる場合と、柵の上面(水平よりやや手前に傾斜)に付けられる場合とがある。前者は墨字のサインと一体のものが多いようだが、後者の方が触読しやすいといえる。また、扉の左右どちら側に設置するかについては、今のところ左側が多いと見られるが、利用しやすさの観点から、両側に設置するのが望ましいだろう。

次に、表示内容だが、鉄道10社の例を見比べただけでも、様々なものがあることがわかった。(以下便宜上、表示を墨訳して記す)

(A)点字のみによる表示

最もシンプルな東京のJR東日本山手線は、「6ノ1」のように書き、6号車の1番扉を表す。車両内の扉に付けた点字表示にならったものだが、スペースのわりに簡略化しすぎと感じる。東京メトロでは、「1番線新木場方面/4号車2番ドア/→先頭(10号車)」のように、番線・行き先方面と、先頭車両が表示の読み手から見て左右どちらの方向かも示している。「弱冷房車」のような情報を付加する例(都営地下鉄)もあった。これらに加え、「←階段/←エレベーター」のようにホーム上の情報も書いているのがつくばエクスプレス。降車後のガイドとして有効と考えられる。

(B)点字とともに触図も交えた表示

大阪市営地下鉄の車内の乗車位置表示に始まった、大きめの凸点と凸バーによる図がホーム可動柵にも応用されている。凸点の並びで車両数と今いる位置、凸バーの組合せで車両内の扉数と今いる位置を示すもので、図のルールを知れば、何両編成のどのあたりかが直感的に把握できる。横浜市営地下鉄や小田急電鉄でも採用している。

このように、ホーム可動柵の表示は多様であるため、ある程度の規格化が必要となりそうだ。だがその前に、このような表示の存在を利用者に広報し、活用を促しつつ意見を出し合う環境作りが大切だと思う。

ホーム可動柵

 

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