日盲社協通信 令和2年(2020年)4月号(通巻80号) 編集人:福山博   発行人:舛尾政美 発行所:社会福祉法人 日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協) National Council of the Agencies of the Welfare for the Blind (NCAWB) http://www.ncawb.org/ もくじ  なお強い覚悟を持って 理事長 舛尾政美  再び、学んで備える 常務理事 長岡雄一  ピンチをチャンスに変える発想 常務理事 荒川明宏  今年の「日盲社協大会」は中止 ―― 断腸の思いで舛尾理事長が表明 ――  (誌上慶祝会)山下文明氏の厚生労働大臣表彰を祝す 日盲社協理事 日本盲導犬協会専務理事 吉川明  東京光の家100周年に寄せて 株式会社ラビット代表取締役 荒川明宏  わが施設の今 第3回滋賀県立視覚障害者センター 滋賀県視覚障害者福祉協会会長 大橋博  令和元年度点字出版部会職員研修会 in 東京 日本ライトハウス点字情報技術センター 金子研一、京都ライトハウス情報製作センター 山本たろ  令和元年度音訳指導員講習会(第15回音訳指導員認定講習会)並びに利用者アンケート結果報告 香川県視覚障害者福祉センター 香川恵、枚方市立中央図書館 服部敦司  令和元年度情報化対応支援者研修会報告 ―― 相談支援コース ―― 堺市立健康福祉プラザ視覚聴覚障害者センター 原田敦史  令和元年度生活施設部会施設長並びに職員研修会 生活施設部会長 茂木幹央  令和元年度盲人用具部会研修会 常務理事 荒川明宏  2020年11月1日の日本点字制定130周年に寄せて 日本点字委員会会長 渡辺昭一  <新規加盟施設> 株式会社高知システム開発  母は鬼か? 慈愛の持ち主か? ―― 瞽女小林ハルの生涯が映画になった ―― 元NHKチーフディレクター 川野楠己  日盲社協事務局だより/編集後記     なお強い覚悟を持って     理事長 舛尾政美  今年は2月半ばを過ぎて真冬のような厳しい寒さが続いたり、打って変わって初夏の暖かさが続いたりと不順な天候が続いています。皆さんお元気でお過ごしでしょうか。  昨年を振り返ってみますと、大雨が続いたり、台風が全国各地で大きな被害をもたらしました。特に台風19号は各地で大被害をもたらしたので、改めて心よりお見舞い申し上げる次第です。  実は私の地元においても9月に台風17号が下関市に接近して、山口県盲人福祉協会本部の木造部分約180平方メートルを直撃し、大きな被害を出しました。建物が全く使えなくなったほか、多くの機械や器具、点字図書、そしてかけがえのない資料を失うことになったのです。  このため10月から年末にかけては、廃棄物の処理や片付けなどに明け暮れました。新しい年を迎えて、本館の鉄筋コンクリート部分の補強や修理などを進め、2月末になって、やっと4月から点字図書館や点字出版所の通常の事業が始められる見通しが立ったばかりです。しかし一息できるかと思った矢先、新型コロナウイルスが中国から日本全国へ広がり、今、全く先が見えない厳しい状況になっています。  一方、日盲社協の陳情等の活動を振り返ると、養護盲老人ホームの措置控えやガイドヘルパー事業の改善などを年度当初から関係各方面に積極的に働きかけました。しかし国は、「こうした問題は地方自治体と相談するように」と言って逃げるばかりです。わずかに7月に契約による入所という新しい提案が出ましたが、地域貢献が見え隠れするようなもので、法人の経費負担が大きくなり、事務量が大きくなるだけで問題の根本的な解決にはほとんど役に立ちそうにありません。ホームヘルパー事業の改善についても事務的な負担が大きくなるばかりで、事業が続けられなくなり、結果的に事業所を廃止せざるを得なくなると困るのは利用者です。ただ、こうした中でも喜ばしいことが2つありました。  1つ目は、国が昨年の10月から年金生活者支援給付金として月6,250円を年金に上乗せして支給することにしたことです。支給の時期は障害基礎年金と同じ偶数月で、2ヶ月分合わせて1万2,500円が支給されるようになりました。  2つ目は、平成医療学園が厚労省を相手に「あはき法19条の違憲」を東京、大阪そして仙台の地裁に訴えていた裁判で、12月16日に東京地裁は同学園の訴えを全面的に却下したことです。同学園は控訴を考えているようですが、今回の勝訴はひとまず視覚障害者にとって喜ばしい限りです。  以上、1年間を振り返ってみると誠に厳しいものがあります。しかも今、新型コロナウイルスの広がりが暗雲となっています。国の経済や社会の変化など考え合わせると、この先なお一層強い覚悟を持って対処しなければならないと思う昨今です。(山口県盲人福祉協会理事長)     再び、学んで備える     常務理事 長岡雄一  令和2年(2020)3月1日現在、東京での感染者は39人。人口比としては、さほど多さを感じる数字ではありません。毎年流行するインフルエンザが、この数字で収まることなど、まずないはずです。しかし、世の中の騒々しさは、インフルエンザの比ではありません。  この新型コロナウイルス、他のコロナウイルスによって引き起こされる病気よりも、圧倒的に致死率が低いと言われても、実際に亡くなる方の報道がされると、落ち着かなくなるのは致し方ないことでしょう。そこを「大丈夫、大丈夫」と言って、勇気づけることには、かなり無理があると言わざるをえません。  たぶん、市民の皆さんの恐れは、病態がどうのこうのというよりも、「得体のしれないもの」が中心にあるからではないのでしょうか。この「何とも言えない不安・恐怖」を払拭することなしには、落ち着いた生活を送るのは難しいのではと思います。  実は、前号の『日盲社協通信』の拙稿でも災害のことを取り上げ、「学んで、備える」ということの必要性を訴えたつもりでしたが、そこからまだ半年もたたずして、また違った災害への対応を迫られるなど、驚きでしかありません。ただ、これこそ「事業継続」の中心的な課題であることは間違いなく、自らが試されていると考えれば、この状況に立ち向かうことの納得感はあります。  私の勤務する事業所も、それなりの対応をとってはきていますが、中心にあるのは、本来業務である「訓練の提供」をどう確保していくかということになります。事業所の場合、訓練の提供以外にも、さまざまな取り組みがあり、それは、いかに「訓練の提供」を生かすかに主眼が置かれていると言っても、言い過ぎではないでしょう。  したがって、「訓練の提供」という中心部を確保するには、まず、それ以外の部分をあきらめざるを得なくなります。ボランティアは、事業所の円滑な運営や閉鎖的にならない事業所運営の意味からも大切な役割を担っています。しかし、今回、しばらく休止することとしました。同様に、各種サークルも一定期間、実施を見送ることとしました。生活の質の向上に大きく寄与する、これらの活動を休止することは、利用者の方々に申し訳ない思いもあります。ただ、センターの本来業務である「訓練の提供」を継続させるための方策としては、避けられないことかもしれません。  こうした対応は、実は、その規模や影響力とは大分異なりますが、平成23年(2011)の震災対応が非常に参考になっています。  あのときは、「訓練の提供」もその周辺領域にあるものも、全て同時に中止せざるを得なくなりましたが、中止期間の考え方、何をもって再開に踏み切るのか等々、これからを考えるにあたっての一つのヒントが、そこに詰まっています。 学んで備えることの重要性を、改めて思い知らされる昨今です。     ピンチをチャンスに変える発想     常務理事 荒川 明宏  人はいつもと違う事が起きると、不愉快に思ったり、ストレスを感じたりします。例えば、通勤の電車が5分遅れると、「電車が5分遅れて」と思い、車内アナウンスに「本当に謝罪しているのか?」など、心の中で不満の声を上げたりするものです。  それではなぜ、そのような気持ちになるのでしょう。それはそもそも、電車は時間通りに来るものだという固定観念があるからではないでしょうか? 私は「人がすることなのだから、遅れて当然」といつも思っていますので、そのような事態が起きても、何ら気持ちが揺れることはありません。そのため冷静な行動がとれます。  「人身事故が起きたので、振替輸送を行います」とアナウンスが入れば、人は一斉に振替輸送の方に集中します。そうすると普段より遠回りをし、さらに混雑して、入場制限となり……。それより、みんなが降りてしまった電車に乗り、時間を過ごす方がエネルギーの消耗もなく、時間の有効活用に繋がります。  この3月、政府はコロナウイルスの対策として「通勤時間をずらすように、またはテレワークで仕事をするように」と、企業への呼びかけを行いました。株式会社ラビットでは、9時30分〜17時の営業時間を、8時30分〜16時の営業時間に変更しました。そして、朝礼の時間も9時から8時に変更しました。時差出勤というと、9時から11時と遅い時間を考えます。みんながそのような行動を取ると、遅い時間の方が混み合います。そのため早く出社して、早く帰るというのを徹底したのです。今まで、20時に退社していたのを、17時30分には会社を全員出るようにして、18時以降のラッシュに巻き込まれないようにしています。  これを初めて1週間。お客さまには少し不便をかけていますが、従業員にとってはこのスタイルの方が家族との時間も作ることができ、良いのかも知れません。  中小の職場には新しい人はなかなか採用できません。給与を高くしても、新しい人が来てくれないのが、現状ではないでしょうか? そして、視覚障害者へのサービスには専門的な知識がとても重要で、AIやロボット、一時的なパートタイマーで代替が利くようなものでは決してありません。  70歳、80歳まで現役で仕事をするためには、サービス時間の変更など、利用者にも許容できる範囲の変革が必要になるのではないかと、今回のコロナウイルスを通して考えさせられました。  まさに、「ピンチをチャンスに変える発想」です。この経験が、組織のあり方を考える一つの力になるのではないでしょうか? (株式会社ラビット代表取締役)     今年の「日盲社協大会」は中止 ―― 断腸の思いで舛尾理事長が表明 ――  6月18・19の両日、滋賀県彦根市において開催が予定されていた「第68回全国盲人福祉施設大会(滋賀大会)」は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により急遽中止になりました。  日本の感染者は欧米と比べるとずっと少なく感染拡大も緩やかですが、それでも不気味に漸増しているのは間違いなく、極めて予断を許さない状況です。とくに東京では感染拡大が顕著であるため、在京の長岡雄一、荒川明宏両常務理事は、早くも3月23日(月)には、危機感を持って舛尾政美理事長に現状を報告するとともに判断を仰ぎました。  一方、主管施設である滋賀県立視覚障害者センターは、指定管理者である滋賀県視覚障害者福祉協会(滋賀視協)大橋博会長を先頭に、参加者をおもてなしするために万全の準備を整えてきました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、滋賀視協は大会初日の夕刻に予定していた懇親会の開催は、できれば控えて欲しいとの意向を日盲社協に伝えました。その上で第68回全国盲人福祉施設大会開催の有無は、日盲社協の決定に従うと3月25日(水)に表明したのです。  かくして3月30日(月)に日盲社協執行部は大会を延期ではなく、中止する方向で最終調整にはいりました。しかし大会の開催は、理事会の決議事項なので、慎重の上にも慎重を期す必要があります。そこで4月2日(木)を期限に各理事の意見を集約しました。それに基づき決議省略による第1回理事会において、正式に開催中止が決定されたのでした。  大会が予定されていた会場は、琵琶湖の東岸に位置し、井伊家35万石の城下町として栄えた彦根市内の琵琶湖畔にある彦根ビューホテルで、この地には、現在も国宝彦根城を中心に市内のいたるところに城下町の面影が色濃く残る景勝地です。  しかもこの地には、明治41年(1908)に現在の滋賀県立盲学校の前身である私立彦根訓盲院が設立され、大正15年(1926)には現在の滋賀視協の前身にあたる当事者団体の滋賀県盲人会が発足するなど、古くから滋賀県の視覚障害者にとって、大変ゆかりの深い土地柄です。(編集部)     誌上慶祝会     山下文明氏の厚生労働大臣表彰を祝す     ―― 利用者と職員現場の視点を決して忘れない ――     日盲社協理事・日本盲導犬協会専務理事 吉川明 山下文明さん、「厚生労働大臣表彰」の受賞、おめでとうございます。 私が山下さんと知り合ったのは、4年前に日盲社協の理事会で席を隣にしたことに始まります。以来、自立支援施設部会の仲間として、部会の活性化と事業について議論し実行に移してきました。山下さんのぶれない利用者視点、現場視点と卓越した福祉事業知識に圧倒されました。お人柄はふところ深く、柔らかく受け入れてくださる方です。 それもそのはずです。愛知県立大学社会福祉学科を卒業後、昭和56年(1981)4月に名古屋ライトハウスに入職。以来39年間、名古屋ライトハウス一筋、福祉一筋に歩んでこられました。 重度身体障害者授産施設の職業指導員として工賃向上と職業開拓、とりわけ肢体不自由者(脳性マヒ者)による企業のソフト開発、システム開発からスタート。その後、視覚障害者の工賃向上と職業開拓、さらに職業開発から情報支援へと視野を拡げられました。  視覚障害者だけでなく、身体障害者、知的障害者、精神障害者と関わられ、多視点を持って機敏かつ明快に判断されており、現在は、名古屋ライトハウスの専務理事・法人本部長を務めておられます。 名古屋ライトハウスの予算規模は32億円で、職員数450名、施設利用者約700人、相談のみの方1300人。就労継続支援B型が4ヵ所、就労継続支援A型が1ヵ所、就労移行支援が2ヵ所、入所施設が2ヵ所、福祉ホームが5ヵ所、視覚障害者情報提供施設が1ヵ所、相談支援事業が6ヵ所、特養・盲養護老人ホームが各1ヵ所、放課後等デイサービスが2ヵ所、計7拠点45事業所の大所帯です。 決して強く引っ張っていくタイプではない山下さんが、これほどの福祉組織を経営できるのは、常に利用者の視点から事業・時代を見られているからだと思います。そして、若い職員に「しあわせとは何か?」と問いかけ、「自分で決めることと仲間を増やすこと」を実践されてこられたからだと思います。 このたびの厚生労働大臣表彰を励みにさらなるご活躍を期待しております。     東京光の家100周年に寄せて     常務理事 荒川 明宏  2月15日(土)、東京都立川市にあるパレスホテル立川において、「東京光の家創立百周年記念式典・祝賀会」が、関係者約200名を集めて厳かに開催されました。以下、敬称略とさせてください。  東京都日野市にある社会福祉法人東京光の家(石渡健太郎理事長)は、大正8年(1919)、盲目のクリスチャン秋元梅吉(1892〜1975)による“盲人に聖書の福音を”という祈りを源泉に、聖書とキリスト教関係書籍を発行するために設立された盲人基督信仰会をその前身とします。  同会は、昭和4年(1929)には社会部を新設し、盲人の宿泊、慰安事業を始めました。昭和8年(1933)4月、東京光の家(以下、「光の家」)と改称して点字出版の充実に努めましたが、太平洋戦争の勃発で点字用紙の入手が困難になり、戦時統制の下で昭和19年(1944)に肥後基一が個人経営する星文社と事実上強制的に統合され、点字出版事業を継続しました。  終戦後、光の家は点字出版事業から手を引き、盲人の宿泊および更生福祉事業に専念するようになりました。昭和25年(1950)財団法人の認可を受け、そして昭和 27 年(1952)に社会福祉法人へと組織を変更し、聖書の教えを法人経営や利用者サービスに活かすことを基本理念とする本来の姿を取り戻して再興され、今日まで規模を拡大して事業を展開してきました。この100年間で、光の家は新生園(訓練型障害者支援施設)、栄光園(就労型障害者支援施設)、神愛園(救護施設)、鍼灸マッサージホーム、就労ホーム、障害者グループホーム、地域交流センターが有機的に繋がった総合福祉施設に成長しました。  このため当日11時から挙行された記念式典のオープニングは、光の家らしく、まず讃美歌 312番「いつくしみ深き」の大合唱にて始まり、続いて利用者による次のような聖書の朗読が会場に響き渡りました。  イエスが道を通っておられるとき、生まれつきの盲人を見られた。弟子達はイエスに尋ねて言った、「先生、この人が生まれつき盲人なのは、だれが罪を犯したためですか。本人ですか、それともその両親ですか」  イエスは答えられた、「本人が罪を犯したのでもなく、また、その両親が犯したのでもない。ただ神のみわざが、彼の上に現れるためである」(ヨハネによる福音書 第9章 第1節〜第3節)  続いて、感謝状の贈呈、日野市大坪冬彦市長をはじめとする来賓による祝辞、光の家を紹介するビデオ上映と進み、お祈りの後、讃美歌で締めくくられました。  式典ののち、パレスホテル立川の別室において記念祝賀会が、来賓の挨拶に続き、乾杯の発声で華やかに開始されました。途中、光の家の様々な取り組みを紹介するビデオ上映が行われました。  祝賀会のメインイベントは、視覚障害に加えて他の身体障害や知的障害等の重荷を背負って音楽活動を行っている「光バンド」による演奏で、まず光バンドの指導に携わっている方の挨拶に続いて、女性ボーカルによる「アメイジング・グレイス」の静かで伸びやかな歌声から始まりました。次いでこの日のために練習を重ねた数曲が演奏されたのち、古くから交流のあるシンガーソングライター谷村新司さんからのビデオメッセージが披露されました。そして、谷村さんが自ら作詞作曲して光バンドに贈った「今を生きて」も演奏されました。  祝賀会でのアトラクションといえば、酒も入っていることもあり、かなりざわついていることが多いのが通り相場ですが、光バンドの透明感のある演奏は、聞く人の心を打つためか、みなさん静かに聞き入っていたことが印象的でした。  光バンドは平成元年(1989)6月、光の家で自立に向けた生活を送る高橋正秋を中心にした音楽グループです。高橋は視覚障害と知的障害、自閉症の重複障害者で、16歳の時に光の家に入所。他にも音楽に興味のある入所者がいたため、職員の提案でバンドが作られ、当初はメンバー5名で「正秋バンド」と命名されスタートしました。現在は、仲間も増え、光の家で生活する男女10人が、ボーカル、ドラム、ピアノ、電子ピアノ、ベース、ギターなどを担当し、実力も上がってきたので、飛躍を目指して平成26年(2014)に「光バンド」と改名しました。  結成後30年以上が経過した現在も精力的に活動を続けており、平成11年(1999)にはスウェーデンで、平成25年(2013)にはハワイでの公演も実現させ、バンド結成以来、全国各地で300回近くのコンサートを開催しています。  光バンドの人気に象徴されているように、光の家は多くの人々に愛されており、その法人が100周年を迎え、コロナウイルス騒動に巻き込まれることもなく盛大に祝われたことは誠に慶賀に堪えません。そして光の家が、私たちの日盲社協の加盟施設であることを、嬉しく、頼もしく思った1日でした。     わが施設の今     第3回滋賀県立視覚障害者センター     滋賀県視覚障害者福祉協会会長 大橋博 滋賀県立視覚障害者センターは、滋賀県彦根市にある視覚障害者情報提供施設です。  最寄りのJR彦根駅からは約2.3kmで、バスで約6分の道のりですが、運行本数は午前2便・午後2便のみです。地方の抱える路線バスの縮小・廃止という問題に直面し、利用者がセンターに来るための交通手段の確保に苦労しています。  ですが、駅からわがセンターの間には彦根城の桜並木がある風光明媚な土地柄でもあり、天気の良い日は約30分の散歩も兼ねて、歩いて来所される利用者もおられます。  昭和31年(1956)に同じ彦根市内に開設された「滋賀県立点字図書館」を前身とし、平成12年(2000)に現在の場所に「滋賀県立視覚障害者センター」として移転・開所しました。  建物は鉄筋コンクリート造の平屋建で、敷地面積1,904.48u、延床面積905.05u。元は児童相談所だったものを改修・増築した建物なので、その名残として、玄関から入って正面の壁全体が白鳥や魚が描かれた壁画になっているのが印象的です。  県立の施設ですが、社会福祉法人滋賀県視覚障害者福祉協会が指定管理者となり運営しています。当事者団体が指定管理者であるという特徴を活かし、提供するサービス内容には常に当事者の声を取り入れ、また、視覚障害者自身がボランティアとしても活動する等、職員と利用者が一体になって施設運営をしている雰囲気があり、不便な立地にもかかわらず、行事のある日はいつも多くの利用者で賑わっています。  指定管理者制度という中での施設運営は、財源の確保、協定による制約、5年毎の契約による雇用の不安定感、長期経営計画の立てにくさ等、苦労も多々ありますが、職員一人ひとりが創意工夫し、利用者と共に、サービスの質の向上、施設環境の改善に努めております。  滋賀県視覚障害者福祉協会は、平成29年(2017)、同じ彦根市内に滋賀県で初となる視覚障害者のための就労継続支援B型作業所「滋賀アイステショーン」を開設しました。視覚障害者センターと役割を補完し合いながら、視覚障害者の生活の質の向上を支援しています。     令和元年度点字出版部会職員研修会 in 東京     日本ライトハウス点字情報技術センター 金子研一、京都ライトハウス情報製作センター 山本たろ  点字出版部会は、令和元年(2019)11月28・29の両日、東京都杉並区の阿佐谷地域区民センターにおいて職員研修会を、19施設、56人の参加で開催した。  1日目(13〜17時)のプログラムは、  1.自動製版機技術交流ワークショップ  分科会@ 小林鉄工所製自動点字製版機「ブレイルシャトル」に関する分科会(座長:山本たろ氏)  分科会A 仲村点字器製作所製自動点字製版機「ZPメーカー」に関する分科会(座長:金子研一氏) 講演「ZPメーカー電子回路のリニューアルについて」(講師:金子研一氏)  2.日本点字図書館のふれる博物館の説明とルイ・ブライユの生家と日本点字図書館の立体模型に触る体験会(解説:日本点字図書館ふれる博物館川島早苗氏)  3.日本新聞インキ株式会社が開発中のインクジェット方式による点字プリンターの紹介と実演  2日目(9〜12時)のプログラムは、  4.講演『日本点字表記法2018年版準拠 点字出版物製作基準』(講師:日本ライトハウス点字情報技術センター〔TeCTI〕福井哲也所長) 5.情報交換  ここでは「ワークショップ」の分科会@と分科会A、それに講演にしぼって以下に報告する。  分科会@  京都の小林鉄工所製ブレイルシャトルは、点字出版業界の中心的自動点字製版機だが、それゆえに不具合時の修理対応や機器改善などについての要望も多い。  そこで本部会では平成29年度に小林鉄工所社長に講演していただき、平成30年度にはメーリングリストを活用し、情報交換や要望の整理、小林鉄工所からの回答の発表を行い、課題の確認や修理技術の向上に努めた。そして令和元年度の分科会@に際しては、メーリングリストへの新規加入施設も含めた報告資料を更新し、(1)視覚障害者生活情報センターぎふ、(2)岡山ライトハウス、(3)名古屋盲人情報文化センター、(4)光の家栄光園、(5)佐賀ライトハウス六星館からの実践報告を元に16施設、31人の参加で、ブレイルシャトルの修理や調整等に関する情報交換を行った。  各施設のブレイルシャトルは、最古は昭和63年(1988)で、最新は令和元年(2019)導入と幅広く、使用OSもWindows 14台、MS-DOS 5台、F-BASIC 1台であった。  事例発表では、「点字原版のある行に『氏』の1マスしか刻印しなかった場合、それ以降は一切作動しなくなる」等の不具合例が紹介された。また、打ち損じの原版を持ち込んでの発表等も行われ議論が沸騰した。  解決策も注油や清掃から、ネジの締め付け調整、製版速度の調整、クラッチブレーキパックやマイクロセンサーの交換など多様で3年間の技術の蓄積がみられたが、小林鉄工所との連携についての強い要望があり、修理体制の改善が大きな継続課題と考えられる。(文責:山本たろ)  分科会A  仲村点字器製作所製自動点字製版機ZPメーカーは、製造元による修理等を受けることが極めて困難な状況にある。  2017年度に開催された職員研修会では、この状況を共通認識し、点字出版所は相互に協力をしながら自らの手で自動点字製版機のメンテナンスを実施しなければならないことを改めて確認した。  その後、メーリングリスト等を使い、関係者はZPメーカーの不具合や修理内容を互いに連絡し、トラブルに遭遇した施設からのSOSに対して、解決策を提示して問題を解決した事もあった。  今回のZPメーカーに関する分科会Aは、日頃メールや電話でやり取りをしている関係者が、直に顔を合わせて知見を披露する貴重な機会となり、誤作動によって打ち損じた見本や、交換したセンサー、モーター、ギアを持ち寄って、トラブル対処法の意見交換も行った。  この間の教訓は、清掃と注油を怠ると、すぐに症状が現れないが、徐々に部品を痛め、ある日突然音を出して壊れる。記録がないと、同じトラブルや実験的な試行を繰り返す結果となるということだった。  2年前に比べると、かなり立ち入ってZPメーカーを解体して、組み立てている施設もあり頼もしい限りだ。だが我々は機械技術者ではなく、あくまでも使う側であることを忘れず、安全第一で取り組んでほしいものである。(文責:金子研一)     講演「ZPメーカーの電子回路のリニューアルについて」  TeCTIでは平成15年(2003)からZPメーカーを使用しているが、7年ほど前から点字の位置が上下にずれる「行ズレ」、左右にずれる「マスズレ」が発生し、年々その頻度が増してきた。  この不具合の原因は「電子回路の劣化」という見解に至ったが、問題の電子回路に使用されている部品は非常に古く、修理や複製は不可能だった。そこで専門業者の協力を得て、平成30年(2018)から新しい電子回路の開発に着手。このたびTeCTIが保有する3台の「ZPメーカー」すべての電子回路のリニューアルが完了し、正常な動作が確認できたのでここに発表した。  専門的技術的な話題は避け、リニューアル前のZPメーカーの動きを記録しておく方法、専門業者を見つけるまでの経緯、完成後修理不能に陥らないために汎用性の高い部品を使用する設計思想、開発中に遭遇したトラブルなどを報告した。  「電子回路の劣化」が原因だと推測できる不具合に悩まされている施設は多数あり、電子回路のリニューアルを希望する施設もある。当センターは、まだ開発した電子回路の実用検証段階を脱しきれておらず、すぐにお応えすることはできないが、今後は、開発した電子回路の外部提供の準備を整えたいと考えている。また、報告の中で紹介したWindowsのパソコンで動く、当センター製の点字編集・自動製版システム「WinBred10」を使用したいとの声も上がり、こちらについては有償だが、すぐにでも提供が可能である旨伝えた。  2017年度の職員研修会で、「電子回路のリニューアル」をZPメーカーの課題として挙げ、それから2年経ちようやく成果を報告することができた。残る課題は、原板に点字を刻印する凹型の「受け」と凸型の「ピン」の製作だ。これも開発の糸口を見つけ出し、今後開かれる職員研修会で報告したいものである。(文責:金子研一)     令和元年度 第38回音訳指導員講習会(第15回音訳指導員認定講習会)並びに       利用者アンケート結果報告     香川県視覚障害者福祉センター 香川恵、枚方市立中央図書館 服部敦司 1.音訳指導員講習会報告  令和元年(2019)11月27日から29日の3日間、大阪市の玉水記念館を会場に第38回音訳指導員講習会並びに音訳指導員認定試験を実施した。あらかじめ選考試験を行い、受講者は99人だった。今年度は認定試験の年で、従来通り3日間の日程で中身の濃い講習会となった。情報サービス部会監事の橋口勇男氏の挨拶から開会した講習会の概要は、以下の通りである。  1日目(11月27日)  @大阪府立中央図書館の杉田正幸氏より「改正著作権法の施行と障害者サービスについて」。録音資料をめぐり大きく動いた法律等について、資料の製作者が知っておくべき知識や、今後必要とされるサービスについて解説していただいた。  A音訳指導員研修委員会が担当した「利用者アンケート・利用者が求める録音資料とは」。結果報告を後段に記したのでそちらをお読み願いたい。  B音訳指導員・フリーアナウンサ―として活躍中の安田知博氏による「読みの指導法」。あらかじめ録音された音源を聞き、癖のある音訳者の指導法をグループで話し合った。  2日目(11月28日)  C元静岡県点字図書館副館長の熊谷成子氏に処理技術「写真・図」のご講義をい ただいた。処理の手順、説明のポイント、作文の手法等具体例を交えての内容だった。  D音訳指導員研修委員会担当の「録音・デイジー編集の基本」。デイジー録音と編集の基本を、養成講習会等で取り上げたい内容に絞ってまとめた。  ENHK放送文化研究所の塩田雄大氏より平成28年(2016)に発行された「アクセント辞典の改訂と特徴」について、新しく採用されたアクセント記号やアクセントの変遷等についてご講義いただいた。  F大阪市立中央図書館の松岡章子氏による「音訳に役立つ調査方法の基本」。自館でのレファレンス例を挙げながら、データベースやインターネットを使った最新の調査技術を学んだ。  G音訳指導員研修委員会担当の校正技術「選考課題の解説」。選考試験の課題として配布された校正問題を使って、校正研修を行う際に注意したいポイントをまとめた。  3日目(11月29日)  H日本ライトハウスの松本一寛氏に「視覚障害者を取り巻く先端技術」について、四つのカテゴリーで新しい読書方法をご紹介いただいた。  I金城学院大学教授の磯野正典氏に「発声・発音を中心に」のテーマで、楽しくできる発声発音練習や音訳活動の現状や課題についてご講義いただき、音訳の将来についても考えさせられた。 講習会終了後、認定試験を行い60名の方が合格された。(文責:香川恵)  2.「利用者アンケート 利用者が求める録音資料とは」の報告  今回の研修会では利用者に対して録音資料の質に関するアンケートを実施し、その結果を発表することにした。音訳者にとって録音資料の利用者からの意見はとても知りたい情報であるはずだが、これまでこうした本格的な調査は行われなかった。そこで、初めての試みとなる今回は録音資料全般にわたる質問を総合的に行うこととした。さらに踏み込んだ調査については、今回の調査で「モニター協力者」を募り、その人たちを対象に次回以降に行うこととした。 以下、主な結果を紹介したい。  調査期間中の約3か月の間に329人から回答があった。回答者の多くは60代以上で全体の71%(236人)を占め、10代〜30代の3.3%(11人)との差が際立った。  読書量は週に2〜3冊程度が33%(99人)、続いて週に4冊以上が21%(71人)と、合わせて半数を超え、多読の人が多いことがわかる。複数回答を求めたよく読む分野では小説・エッセイがもっとも多く、雑誌が続いた。他の分野への希望も多岐にわたり、マンガや美術書など処理の必要なものやニュースや新聞など、即時性のある資料のニーズも明らかになった。  再生機器はプレクストークが多く、マイブックなどのPCソフトを使っている人も目立った。それに対して、タブレットやスマートフォンを使っている人は今回の調査では少数派だった。回答者が比較的高齢の方が多かったことが関係しているかもしれない。  録音資料の質について、まず満足度の質問では満足が40%(132人)、おおむね満足が41%(138人)の合わせて81%だった。その後の質に関する質問は「不満」14%(49人)、「大いに不満」0.6%(2人)と答えた人(51人)に対して行った。以下は複数回答の結果である。  どのようなところに不満があるかという質問には「音訳者の読みの質に問題がある」とした人がもっとも多く、「音の大きさや雑音など録音の質に問題がある」などと続いた。「音訳者の読みに問題がある」と答えた人(39人)に今度は音訳者の読みのどのようなところに問題を感じるかを聞いた。その結果は「言葉がはっきりしない」「不自然なアクセントがある」が上位にきて、「読みが単調で、メリハリがない」などが続いた。  「音の大きさや雑音など録音の質に問題がある」と答えた人(25人)にどんな点に問題を感じるかを聞いたところ、「読みの後ろに聞こえる『ジー、ブーン』という電気ノイズのような音」がもっとも多く、「読み直しが明らかにわかる音質の違い」が続いた。音訳者が特に気にしがちな口中音は6人と下位にとどまった。「デイジー資料として編集の質に問題がある」とした人(16人)にどのような箇所に問題を感じるか聞いたところ、「製作施設・団体等で編集方法が違う」「目次通りの適切な見出しやレベルでないため移動ができない」が続いた。  自由記述で聞いた、今後録音図書に期待することとしては「多様なジャンルの図書を充実させてほしい」「完成までの期間を短くしてほしい」「将来にわたり、製作体制を安定させるため努力してほしい」「言葉をはっきりしてほしい」「会話部分の読み方への注文」等々、多岐にわたる意見が寄せられた。 最後にこのアンケートにご協力いただいた皆様に心よりお礼を申し上げる。(文責:服部敦司)  「録音資料についてのアンケート調査」の項目については、下記、日盲社協ホームページにてダウンロード後、ご覧いただけます。URL:http://www.ncawb.org/osirase.html     令和元年度情報化対応支援者研修会報告     ―― 相談支援コース ――     堺市立健康福祉プラザ視覚聴覚障害者センター 原田敦史  今年度も情報化対応支援者研修会の相談支援コースが無事に終了いたしました。  令和最初の研修会は基礎コースが11月28、29の両日に26名の方が参加して日本点字図書館で開催されました。  応用コースは年明けの2月13、14の両日に24名の方が参加し、日本ライトハウス情報文化センターを会場に実施しました。3年間で約50名の方が修了しました。開催・運営にご協力いただいた関係機関、関係職員の方に改めてお礼申し上げます。  この研修会は平成29年(2017)に開始して3年目の研修会です。まだよくご存じないという方も多いと思いますので、開始した経緯等について最初に書きたいと思います。  以前からよくいわれていることですが、視覚障害は情報障害ともいわれています。機器の発達や支援の充実で以前より情報へのアクセス環境はよくなったとはいえますが、まだ、なお必要な情報が十分届いていない「見えない・見えにくい方」が多いのが現状です。特に見えない・見えにくい状態になり生活が困った際に相談する場所は少なく、視覚障害関係の施設・団体があっても専門家と呼ばれる人たちは限られた施設にしかいないため十分な相談支援体制ができておりません。  一方で、充実させていくべき職員への対応はといえば、配置されている職員・教員等の多くは視覚障害についての情報や関連法律に関する知識について、また相談対応について十分な研修を受ける機会がほとんどないのが現状です。  そこで、この研修会では、職員の視覚障害に関する基礎知識の確認と相談支援体制の地域格差の解消を目指して、各施設、団体・学校の職員・教員等のスキルアップを目的に開始することとしました。  そのため、今までじっくり学んだことがない初心者の方、改めて学び直したいという方などを対象に、どなたでもご参加いただける基礎的な内容が強いものとなっています。  一人ひとりのレベルが異なる中、研修会にどの程度のプログラムを組み込むのか難しいところですが、なるべく基本的なことを組み込み、窓口や電話等ですでに実施していることの中に「相談」というシーンがあることを感じてもらうために研修内容を作っています。  研修会は基礎と応用の2回で構成をされており、基礎コースと応用コースのプログラムは下記の通りです。     基礎コースプログラム 視覚障害とは ―― 眼疾患(最新の研究、治療)・身体障害者手帳について 視覚障害リハビリテーションとは ―― 視覚障害者リハビリテーションの歴史と必要性 視覚障害者が利用できるサービス ―― 補装具・日常生活用具の申請、その他のグッズ 視覚障害者によくある困りごととその解決法 ―― 見え方・疾患での異なる問題点  相談の基本技術 ―― インテーク(障害を持つ人や家族から事情を聞き、問題点や要望を明確化し援助につなげること)の重要性、傾聴・時間管理、電話での相談 ワークショップ     応用コースプログラム 相談者の身の守り方 ―― セルフケアについて、支援者の健康管理 最新機器 ―― 最新情報提供(拡大機器を中心に) 相談者が求めること ―― ニーズの把握を事例報告から 記録の取り方、まとめ方 ―― 基本情報の収集と記載方法 演習 ―― 聞き上手になるための実践演習 盲導犬について ―― 申請方法、取得基準等について 実践演習 ―― ケースの情報をもとに演習を実施  基礎コースでは、視覚障害に関する病気の基礎的な知識、用具についてや見え方による困りごとの解決法などを学び、相談対応についてもインテーク部分を取り入れています。  応用コースでは、相談の対応に関することを中心にブログラムを組んでおり、情報として知っていてほしい最新機器や盲導犬に関する知識も取り入れるようにしています。  参加者アンケートを毎回とっていますが、講師の先生方の内容のおかげもあり、ほぼすべての方に満足とご回答いただいております。今年度の応用修了者感想では以下のようなものがありました。  視覚について特化した研修はなかなかなくすぐに現場での対応ということが多い中でこのような研修があることはありがたかったです。  視覚障害に関わる研修が少ない中、幅広く視覚障害の相談業務に関わる研修を聞くことができとてもありがたかったです。  基礎編、応用編とも非常に充実した内容で参加して本当によかったです。講師の先生方のお話はどれも心に留まるような印象的な内容でした。  2回×2日間通してすごい講師の方々のお話を聞けたのだなと思います。各地からたくさんの方が参加されていたのでぜひ開催地の数を増やしてもっと展開してほしいと思いました。  今後も参加者のご意見を伺いつつ、より良い研修にして、日盲社協として視覚障害者支援者のスキルアップに貢献していきたいと考えております。  なお、研修会は1年間に基礎と応用を1度ずつ開催しています。場所は基礎・応用を関東と関西で交互に入れ替えて開催をしています。次年度は10月29、20日に大阪で基礎コース、2月18、19日に神奈川で応用コースを予定しています。多くの皆様にご参加いただき、どこの地域でも必要な情報が届けられるようになればと思っています。ぜひご参加お待ちしております。 令和元年度生活施設部会施設長並びに職員研修会 日盲社協理事・生活施設部会長 茂木 幹央  令和元年度の生活施設部会の研修会は社会福祉法人東京光の家の皆様のご協力を得て、令和2年(2020)1月23日から24日にかけて東京都内で実施した。1月23日はマロウドイン八王子で、1月24日は日野市所在の東京光の家で行った。 1月23日(木)  講演1の演題は「光道園の現状と課題、そして将来に向けて」、講師は光道園常務理事で、同第二光が丘ハウス施設長の荒木博文氏。  光道園は昭和32年(1957)に発足。最初は授産施設として出発し、盲重複障害者の施設として発展してきた。  現在経営する施設数は17で、職員は常勤と非常勤を合わせて436人の大規模法人となっている。  講演2の演題は「山梨ライトハウスの概要と青い鳥老人ホームの運営状況について」、講師は山梨ライトハウス青い鳥老人ホーム施設長三富学氏。 最初に山梨ライトハウスの創立者である長谷部薫氏の紹介あり。  山梨ライトハウスは昭和28年(1953)10月に点字図書館を設立しているところから発足。現在は6施設を経営する他、青い鳥奉仕団、白い杖愛護運動、地域との交流事業などを展開している。  以上、2名の講師による講演会終了後は、参加者による食事会の他に情報交換とカラオケ発表会を行なった。 1月24日(金)  講演3の演題は「視覚障害者と就労」、講師は東京光の家救護施設光の家神愛園施設長の藤巻契司氏と同施設相談員の鈴木英征氏。講演が始まる前に、石渡健太郎理事長より「東京光の家は盲目の人秋元梅吉により大正8年(1919)4月1日に創立された施設である」という話と施設の基本理念と経営の基本方針についての感銘深い話があった。  鈴木講師からは、盲人の職業の歴史等についての話があり、藤巻講師からは、人間は誰かの役に立ちたいという思いがあるので、神愛園では入園者78名中70名は作業に参加しているとの話があった。  施設見学では、立派なレストランを経営されていることに驚いた。東京光の家では現在の7施設の他にまもなく2つのグループホームをオープンさせるとの事だった。 今回の研修会には12施設から26名の職員が参加した。 終わりに、関係の皆様に深く感謝申し上げるしだいである。     令和元年度盲人用具部会研修会     常務理事 荒川明宏  令和2年(2020)2月6日(木)、東京都新宿区高田馬場の日本点字図書館において、令和元年度盲人用具部会研修会を開催しました。  まず「障がい福祉サービスの実情と現場の想い」というテーマで、名古屋ライトハウス専務理事・法人本部長の山下文明氏に講演をお願いしました。  盲人用具部会(岡村原正部会長)では、機器の開発、販売を通して、多くの視覚障害者に関わりを持っています。展示会等では、一日に30人以上の視覚障害者と話をすることも、珍しくはありません。しかし、それは展示会に来る、盲人用具に強い興味と関心を持っている一部の視覚障害者に接しているだけであり、全体を知っていることにはなりません。  私自身、視覚障害当事者ではありますが、ものを作ったり、販売したりするためには、より踏み込んだ視覚障害者の実態を知る必要があるのではないかと思い、このテーマに至りました。 講演はいきなり「自立って何だろう?」から始まりました。  これを聞いて頭に思い浮かんだのは、「単独歩行ができる」、「身の回りのことはなんでも自分でできる」、「仕事をしている」……。私が描いたのはそのようなことでした。  そして、自立をしていないという大きなポイントは、「評価・判断・選択・実行・反省」をしないことであると続きます。  よく展示会で見られる光景ですが、視覚障害当事者が「この機器はすごい、ぜひほしい」というと、ガイドさんが「そんなことぐらい、いつでも手伝いますよ」と口を開くので、興味が一挙にさめ、その場から視覚障害当事者がそそくさと立ち去ります。 まさに、「実行」に結びつかないわけです。  そして、支援者側に立った時には、「訓練、しつけ、説教、いじめ、しごき、虐待、拷問」の違いについての話となります。心が通じていない訓練は「しごき」かも知れないのです。  山下氏の話を拝聴する中で、視覚障害当事者、支援者は様々な葛藤の中で日々生活していることを感じることができました。  日盲社協に在籍していなかったら、このような話を聞くことはありません。「日盲社協」という専門家組織の重要性、そして、様々な分野の方々が加盟しているこの組織の素晴らしさに改めて感歎した次第です。(株式会社ラビット代表取締役)     2020年11月1日の日本点字制定130周年に寄せて     日本点字委員会会長 渡辺昭一  明治23年(1890)11月1日に制定された日本点字は、今年の11月1日で130周年を迎える。  この間、日本点字が、日本の視覚障害者の自立と社会参加および地位向上ならびに文化・芸術分野における活躍等に果たしてきた役割ははかり知れない。  カナ文字体系の日本点字に翻案したことが、わが国全体に普及する原動力となった。視覚障害教育・福祉を通じて、日本人のみならず、留学生を含めた幅広い視覚障害者の学力向上と職業自活の道を切り開く力となっている。また、当事者の日常生活における困難を補う手段ともなっている。  さらに、数学・情報処理・理科等専門分野の点字表記の確立および楽譜や外国語点字表記の情報収集と普及を通じて、各種試験への受験機会を可能にした。その結果、国家資格の取得等を通じて、視覚障害者が社会的に認知される地位を獲得するのに貢献してきた。  日本点字委員会では、平成30年(2018)に『日本点字表記法 2018年版』を発行し、それ以降各種専門分野の点字表記の改訂に取り組んでいる。  今年は、遅れていた『数学・情報処理点字表記解説 2019年版』および『理科点字表記解説 2019年版』を発行する。  この数学・情報処理解説は平成12年(2000)発行の『点字数学記号解説暫定改訂版』からの改訂および『日本点字表記法2001年版』掲載の点字情報処理関係のうち、2018年版の表記法で割愛されたコンピュータ・プログラム関係を中心に再編集し、1冊にまとめたものである。 理科解説は、2001年発行の『点字理科記号解説暫定改訂版』からの改訂である。  また2011年発行の『医学用語の点字表記について』を2018年版の表記法に沿う形に改訂するよう検討を進めている。 そして2007年発行の『試験問題の点字表記第2版』の改訂の準備も行っている。  他方、わが国における点字による情報入手の環境は、まだ不十分といわざるを得ない。選挙公報を初め、公的情報の点字化そのものが未実施の場合や、点字化された情報が、希望する全ての視覚障害者に届いていない場合も見られる。これは国民の知る権利の保障を定めた憲法の趣旨に反しているので、国等に対して、早急な制度化および法整備等を求めて行く必要がある。  日本点字制定130周年の節目の年にあたり、改めて点字の意義を再確認すると共に、関係機関等と連携して、制度改善に繋げられる諸事業に取り組んでいきたい。     <新規加盟施設>     株式会社 高知システム開発  Windowsの操作を視覚障害者のために音声でガイドするソフトウェアスクリーンリーダー PC-Talkerシリーズシェア日本ナンバーワンの実績で、安心してお使いいただけます 株式会社 高知システム開発(代表取締役 大田博志)  〒780-0048 高知県高知市吉田町2-23 TEL 088-873-6500 FAX 088-873-6599     Corporate Profile  南国の地・土佐の高知は、いまでも鯨が回遊します。小高い丘に登れば「潮吹く魚が泳ぎよる」と歌われるように、鯨を望むことができ、自然が豊かであることが実感できます。そして親鯨に寄り添うように子鯨が空に舞います。  この高知でブラインドアイコミュニケーションの扉を開くコンピュータ技術により時代を先取りした開発が開始されたのは昭和58年(1983)のことでした。  パソコンがマイコンと呼ばれていた時代にデジタル回路の設計から各種ソフトウエアの開発まで、幅広い技術を持つシステムハウスとして当社は誕生しました。  同年、高知県立盲学校の北川紀幸、有光勳の両先生の依頼と、筑波大学附属盲学校長谷川貞夫先生の協力を得て視覚障害者用ワープロの開発に着手しました。  翌年、視覚障害者が自力で使うことができる日本初の「AOK・点字入力・音声出力ワープロ」を完成させました。  以来、私たちは「視覚障害者の生活支援、社会参加支援」を目的に、各種ソフトウエアの開発、販売、アフターサービスを行っており、日本全国、多くのユーザーの方々にお使いいただいております。  近年のパソコン、周辺機器、ソフトウェア、情報機器の発達は、視覚障害者の世界にも大きな影響を与えています。  スキャナを利用して活字の印刷物を音声で読み上げたり、Webページや電子メールなどインターネット上のさまざまな情報を自由に得ることが可能となっています。  当社は、このような高度情報化社会の環境を、視覚障害者の方がより積極的に利用できるよう、今後とも開発を進めていきたいと考えています。     母は鬼か? 慈愛の持ち主か?     ―― 瞽女小林ハルの生涯が映画になった ――     元NHKチーフディレクター 川野 楠己  新潟県胎内市、奥胎内の峠道。紅褐色に色付いた木々の葉を透した光を浴びて立つ巨木。落ち葉ですっかり覆われた小径を行くハルと手引きのサヨ。と、急にサヨに引きずられるように、巨木の陰に倒されたハルが悲鳴を上げた……。  「カット! オーケーでーす! これですべての撮影が終わりました! クランクアップです!! お疲れ様でした……」  カメラの脇で見守っていた瀧澤正治監督の声が飛ぶ。その言葉の終わりは感極まったようにうるんでいた。  平成17年(2005)4月27日105歳で亡くなったハルの葬儀に駆け付けた瀧澤監督は、霊前にハルの生涯を映画化することを誓った。  資金調達に時が流れた。今年のパラリンピックこそが、世界に発信する絶対のチャンスだと信じて、自宅を手放すなどして捻出した資金でついに完成させた。だが、今後不足分の回収のために10万人の観客動員をはからなければならない。  映画「瞽女GOZE」は丸二年の月日をかけて新潟県内を始め福島県山形県の各地を巡って撮影を行った。  昨年冬、新潟県の弥彦山を背景に吹雪が舞う夏井地区での撮影。吹雪の中のはさ木の下を大きな荷を背負った3人の瞽女がいく。頭からすっぽりと油紙のカッパをかぶり背負った大きな荷まで包むようにしている。風が積もった雪を舞いあげる。右手の杖で雪の深さを確かめながら前の姉弟子の荷の端をつかんで懸命についていく幼い瞽女。はさ木の枝に積もった雪が音を立てて落ちてくる。背負った荷の上にも雪がたまっている。脇から撮影するカメラにかけられたビニールシートにも雪が乗っていた。  映画は、最後の瞽女と言われた小林ハル(1900〜2005)の生涯を修行時代を中心に描く。少女ハルが三味線芸と瞽女唄を身に付けるために極限にまで追い詰められる修行を続け、数倍の努力と訓練によって瞽女となり、その芸を披露しながら、村人たちと心温まるひとときを作り上げていく。瞽女として生きるために厳しい母の躾に耐えるハル。母親の慈愛のこもった真の愛に支えられて自立を成し遂げるハルの姿を、出生地新潟県三条市を中心に雪国新潟の四季折々の美しい自然の中に再現した。  障害者の自立と社会の共生を縦糸に、時には鬼になって盲目の我が子を愛育した母の慈愛を横糸に、母と子の強い絆を描き出した。  この春完成したパイロット版によるモニター試写会では「とても悲しく、とてもあたたかな作品だ」と大好評を得た。  映画「瞽女GOZE」はまず東京で、視覚障害の方でも十分に理解できる副音声システムを取り入れた完成披露試写会が、推薦をいただいた日盲社恊関係者を多数招いて6月3日(水)に有楽町朝日ホールにて予定されている。  そして6月20日(土)から新潟県内各地で、先行ロードショーが行われ、その後各地で上映会が順次開催されていく。     日盲社協事務局だより   1.表彰者・受賞者情報(敬称略)  令和元年度厚生労働大臣表彰中央推薦「社会参加促進功労者表彰」 山下文明氏 日盲社協理事・自立支援施設部会部会長(名古屋ライトハウス専務理事・本部長)   2.加盟施設 変更情報 (1)新規入会 <盲人用具部会> 株式会社高知システム開発 代表取締役 大田博志 令和2年(2020)4月1日付入会 〒780-0048高知市吉田町2-23 TEL 088-873-6500  FAX 088-873-6599 E-mail: kochi.uka@nifty.com  URL http://www.aok-net.com/ (2)退会 <自立支援施設部会> 杉山検校遺徳顕彰会杉山鍼按治療所 令和2年(2020)3月31日付 <生活施設部会> 視覚障害老人ホーム松風荘 令和2年(2020)3月31日付   3.太陽福祉文化賞について  従来は日盲社協からの推薦も受け付けていたが、事業縮小に伴い次回から募集範囲を全盲老連加盟施設に絞ることになった。     編集後記  新型コロナウイルス感染症の拡大が懸念される中、安倍晋三首相は2月26日、大規模イベントを2週間自粛するよう呼びかけました。そして文部科学省は2月28日、全国の自治体に、全ての小学校、中学校、高校、特別支援学校を3月2日から春休みまで臨時休校とするよう要請しました。  かくして日本中が蜂をつついたような大騒ぎとなり、日盲社協でも職員研修会が中止され、日盲社協が推薦する映画『瞽女GOZE』(瀧澤正治監督作品)の試写会が延期になりました。このため3月2日を原稿締切日に設定していた『日盲社協通信』の編集作業も少なからぬ影響を受け、四苦八苦することになりました。  現下の課題は、重症化しやすい高齢者や持病のある人々をいかに新型コロナから守るか。私たちの知恵と工夫、そして連携が試されています。(福山博)   情報提供のお願い  本誌に対する情報提供・要望・苦情・意見・感想は、日盲社協広報委員長福山博宛、メール(fukuyama@thka.jp)等でお送りください。お待ちしております。   『日盲社協通信』WEB版リリース  『日盲社協通信』が、平成23年(2011年)11月号(通巻63号)から、日盲社協のホームページにアクセスして、全文を読むことができるようになりました。こちらもご高覧ください。http://www.ncawb.org/  本誌は、教職員共済生活協同組合の助成により作成したものです。