第1章 視覚障害者のIT利用の現状

第2章 視覚障害者の就労現場でのIT活用

第3章 在宅雇用への道筋

第4章 視覚障害者雇用に向けての助言

第5章 調査の評価と分析

まとめ

まとめ

在宅視覚障害者のIT化に伴うアクセシビリティに関する調査研究事業の調査を通しての考察

 今回の調査は、視覚障害者に対する雇用企業・団体、及び被雇用者へ各々アンケートの発送、回収から始めた。
 引き続き回収した各関係先へ2003年11月に直接出向いて聞き取り調査を行ったのである。
 この調査を行うための準備とその過程、更に、調査の結果から得た事柄は、予想していた通りであったり、意外な発見もあって大変に参考なるものを得られた。
 調査の目的は、視覚障害者がITを活用した就労に如何に対応できるかの視点で取り組んだ。
 そのIT機器のなかでも、多く活用されているものは、パーソナルコンピューター(以下PCと称する)であることが印象的であった。
 そこで、雇用者側と被雇用者をそれぞれ分けて就労の取り組みについて述べてみたい。

(1) 雇用者側
 雇用者企業・団体の経営実態によって、被雇用者の取り扱いに対する理解度がはっきりとした違いをみることが出来た。
 そこで、大きく次のように分類し述べてみる。

1. 中小企業等の事業体
 このような事業体の多くは視覚障害者に対する商品を取り扱っている所であったが、殆どは小規模の形態で、またベンチャー的のところが多い。
 そのため、被雇用者に何を専業に就労させるか、迷っている状態である。
 しかし、視覚障害者向けの取り扱い商品は視覚障害者の目線から得られる期待を持って雇用した視覚障害者を商品説明、クレーム対応などに接応させながら、仕事の具体的役割を茂索している段階のところが多い。
 しかし、なかには、被雇用者が視覚障害を持ちながら、PCやITに卓越した知識と才能を生かして、それら機器に対し新たな創造力を発揮して、ソフト開発でインストラクターの役割を充分に果たして就労していたところもあった。
 本人の並々ならぬ努力の結果が、その企業体の大きな戦力になっていることは、敬服すると共に他の視覚障害者への励みになる誠に心強い雇用者と被雇用者の共存企業もあった。

2. 特例子会社
 特例子会社は障害者を雇用する目的で設立された企業であるため、当然、視覚障害者に対する就労の配慮は行き届いている。
 就業規則をはじめ、晴眼者、男女差、賃金面などのおいても、平等に扱われている。
 斯様な企業とはいえ、他の障害者と比べ視覚障害者の雇用は、必ずしも多いとはいえない。
 このことは、後で述べるように雇用者側だけの問題とは言えない一面もある。

3. 一般企業(特に大企業等)
 ここで述べる一般企業は、その殆どは民間企業である。
 障害者の法定雇用率は、大企業ほど高いし、その意義の理解もある。
 また、毎年微増ながらも増加しているが、こと、視覚障害者への就労の理解は極端に悪い。
 この理由は、大きく分けて二つに要約される。
 A)身体障害者に対しては、健常者でも何らかの怪我などで、その不自由の体験をしているので・おおよその理解はできるが、視覚或いは聴覚の障害はその体験がないとく理解し得ない。
 B)民間企業の雇用者は、企業存続の社会性と利益追求に対する企業の性格上、障害者に対するための事務管理態勢は充分に整ってはいない。
 特に視覚障害者の分野には全くないと言えるが、昨今、ITの利用に馴染んできた事務システムに視覚障害者への就労へ目を向ける企業も少しづつ生まれてきたものの、まだ、一般的には至らない。

4. 視覚障害者の在宅就労には消極的である。
 理由としては、大きく整理すると次のようになる。
 A)フレックス タイム制をまだ導入していない企業では馴染んでいない
 B)視覚障害者への理解不足から生じる事務管理態勢の未整理

(2) 被雇用者側
 被雇用者にも就労に対する意識を改革するいくつかの問題を提起しなくてはならない。

1. 障害者も先天的なものと、後天的いわゆる中途視覚障害者に別けられるだけでなく更に、全盲者と視覚障害程度によっても、かなりの行動事情も異なってくる。
2. 今まで、三療業と言われていた職業も視覚障害者の独占と言えない変化が生じてきた。
3. 特に近年、中途視覚障害者は増加している。 今まで、晴眼者であっただけに突然の障害は人生の将来への不安は計り知れないものがある。
4. この様に、さまざまな事情背景を持ちながら、社会へ調和をしながら就労することは大変なことであるが、今日、多様なITが発明・開発された中で、視覚障害者PCの利用も、最早日常的になりつつある。
5. 被雇用者はある程度就労先に慣れたら、在宅就労を希望したいとの声もあった。
6. 視覚障害者は社会へ積極的な参加意識が足りないようである。

(3) 雇用者・被雇用者をコーディネートサポートすることへの提案
 今まで述べた事柄は、この度の聞き取り調査を基にして、その一部を報告したのであるが、そこから、雇用者・被雇用者各々が就労についての理解を深めるために、彼らをサポートする組織の必要性を実感したのである。
 即ち、

1. 特別に視覚障害者に係わっている事業体や企業を除く一般企業(含一般晴眼者)は視覚障害者の実情は視覚障害の体験がないために正しい理解がない。
 そのために、障害者をどう扱っていいのかが全く判っていないのである。

2. 一方、視覚障害者においても、企業勤務の経験の有無によって、就労とは何かを考える場を行政機関も具体的にもつと応援されることを求めたい。

3. 雇用者と被雇用者で、更に必要なことは、被雇用者にあっては自分が何ができるのかを具体的に表現・提示が出来るようにすることが、就労を容易にすることになる。

4. 雇用者にあっては、雇用に当たって、被雇用者に対して何を求めるのかを明確に示すこともまた必要である。
 障害者の雇用も、ただ法定雇用率達成だけの目的では意味がない。  雇用後にどういうことが、出来るのかを模索しているようでは、両者ともエネルギーの損失が大きい。

(4) 総括
 総括として今回は、視覚障害者の就労に絞った調査であったが、福祉の取り組みにいくつかの疑問が生まれた。
 箇条的に集約すると
1. 障害者の区割りが不明確である。
 例示すると、法定雇用率を見ても、全ての障害者をひと纏めにしていることである。
 果たして、身体障害者や視覚障害者、聴覚障害者などを一律的に雇用率に包含してることに、今後の就労に雇用者も被雇用者も満足できる働く場所にはなるのであろうか。
 労務管理上の問題点として指摘したい。
2. この法定雇用率には、除外率設定業種がある。
 この制度も廃止に向け段階的に毎年縮小されて行く傾向にあるものの、法定雇用率の未達成の割合をみると、雇用者、被雇用者共にそれぞれの理解をしあえる協力と教育を更に深める事が急務と考えるものである。
3. 更なる疑問に、視覚障害者の就労実態がどこの関係機関でも明確に把握していないことは驚きであった。
 調査期間の制約などで、報告には物足りなさを大いに感じる結果になったが、かかる、調査は今後も継続して行うことを強く期待したいものである。
 最後に、本調査にはご多忙の中、多くの方々から真剣に意義あるご協力を戴いたことに、本書をかりて、厚く御礼を申し上げる次第である。


(天岡 秀雄)

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障害者雇用助成金名称一覧

A:障害者雇用納付金制度に基づく助成金
http://www.jeed.or.jp/employer/data01.htm

1.障害者作業施設設置等助成金
2.障害者福祉施設設置等助成金
3.重度障害者介助等助成金
4.重度障害者等通勤対策助成金
5.重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
6.障害者能力開発助成金
7.障害者雇用支援センター助成金

B:障害者雇用継続援助事業に基づく助成金
http://www.jeed.or.jp/employer/data02.html

1.中途障害者作業施設設置等助成金
2.重度中途障害者等職場適応助成金

●問い合わせ先

独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構
http://www.jeed.or.jp/
03−5400−1600

●機構本部
竹芝事務所
105-0022
東京都港区海岸1-11-1
ニューピア竹芝ノースタワー内
TEL:03(5400)1600
FAX:03(5400)1638
大手町事務所
〒100-0004
東京都千代田区大手町1-2-3
三井生命本社ビル2階
TEL:03(5223)3410
FAX:03(5223)3409

在宅視覚障害者のIT化に伴う情報アクセシビリティに関する調査研究事業

社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会
事務局
中尾 忠雄
鷲尾 清孝

以下、委員

委員長 望月 優 株式会社アメディア 代表取締役
委員 天岡 秀雄 法政大学比較経済研究所 兼任研究員
委員 荒川 明宏 株式会社ラビット 代表取締役
委員 石川 充英 東京都視覚障害者生活支援センター 指導訓練課主任
委員 大橋 克巳 筑波技術短期大学 非常勤講師
委員 近藤 義親 ケージーエス株式会社 営業部長
委員 下堂薗 保 中途視覚障害者の復職を考える会(通称「タートルの会」) 会長
委員 堤 由紀子 身体障害者雇用促進研究所株式会社 インストラクター

書名
 在宅視覚障害者のIT化に伴う情報アクセシビリティに関する調査研究事業 報告書
    -コミュニケーション手段から就労への可能性について-
発行 平成16年3月15日

 本報告書は、独立行政法人福祉医療機構より調査研究事業として助成を頂き、
社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会
在宅視覚障害者のIT化に伴う情報アクセシビリティに関する調査研究事業委員会にてまとめたものです。

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