公益財団法人 日本盲導犬協会
常勤理事 吉川 明

渋谷ハチ公盲導犬パレードのスナップ

身体障害者補助犬法成立から10年が経過し、法律の浸透はどの程度進んだのか、また社会の中で盲導犬の受け入れはスムーズに行われているのか? 改めて考えてみた時、盲導犬の育成現場からは様々な課題が見えてくる。

実際に視覚障害者の方が盲導犬歩行という選択肢を考える際、「犬と暮らし行動することで面倒や不便が生じはしないか」と躊躇されることがある。ひとつの命を責任もって預かることに大きな負荷を感じることは当然のことであるが、それだけではなく、「本当に犬を連れて社会の中で活動できるのか」といった根源的な不安から盲導犬使用を諦める方も少なくない。こと日本の社会においては、盲導犬を使用する視覚障害者はまだまだ特別な存在であり、ユーザーが自然体でいるということはなかなか難しいかもしれない。盲導犬と一緒にいる風景が「当たり前」になった時はじめて、真の意味で法律が浸透したと言えるであろう。

補助犬法成立から10年となる今年4月25日国際盲導犬の日には、大勢の盲導犬ユーザーと共に「渋谷ハチ公盲導犬パレード」を行い、補助犬への理解と法律の社会周知を呼びかけた。しかしその帰り道、ユーザー仲間で食事をして帰ろうと評判のパスタ店に入った途端受け入れ拒否にあってしまったという、落ちがついた。こうした実際の受け入れ拒否事例においては、犬を入れるか否かの議論が先に立って、そこにいる「人」を拒否してよいのか? という所まで思いいたっていないケースが多い。補助犬法は、犬の入店について定めたものではなく、補助犬と共に行動する身体障害者のアクセス権を保障したものであることを今一 度理解する必要がある。言いかえれば、補助犬を拒否することは、根源的には犬の問題ではなく、障害者差別につながっている、 と言える。

一方、盲導犬育成現場においても、社会の理解が進まないことによって訓練に影響がでている。盲導犬で認められている電車乗降や駅構内での歩行が訓練犬では認められておらず、乗車を断わられたり、煩雑な手続きが必要であるなど、ベストのタイミングで訓練を実施できない場合がある。こうした問題点について、現在育成団体全体で打開策を提案し、訓練犬も補助犬法が適用されるよう、厚生労働省へ申し入れをおこなっている。良質な盲導犬を育成するためには、効率的な訓練の実現が必須である。 これを社会がサポートすることは、差別を無くし視覚障害者の自立に貢献することに他ならない。

盲導犬育成現場においては、視覚障害者の方が安心して盲導犬を選択できる社会が醸成されるよう、子供時代からの教育など地道な啓発活動を続ける一方、ユーザー自身はもちろん社会も納得できるよう良質な盲導犬の育成が必要不可欠となる。社会の理解と良質な盲導犬の育成、その両方があってはじめて視覚障害者の方の真の社会参加が可能となる。

 

10周年記念シンポジウム

10周年記念シンポジウムのスナップ

身体障害者の生活を支える補助犬を、公共施設や飲食店が受け入れることを義務づけた「身体障害者補助犬法」が本年5月22日、成立から10年を迎えた。そこで、超党派で組織する身体障害者補助犬を推進する議員の会が中心となって、同日、衆議院第一議員会館にて、「身体障害者補助犬法成立10周年記念シンポジウム」が開催され、補助犬の育成団体とユーザー、国会議員や厚労省担当職員等160名に交じり、補助犬31頭も参加した。この催しの背景には、2002年に補助犬法が成立して10年経った今も、いまだに飲食店や医療機関での「同伴拒否」がなくならない現状がある。そこで補助犬の育成団体とユーザーが一堂に会し、改めてこの10年を振り返り、一般社会に情報提供し、新たな一歩を踏み出す契機とするためのもの。

盲導犬はある程度社会的認知も進んで、「仕事中の盲導犬に声をかけたり、触ってはいけない」ということは浸透してきたが、そのために「視覚障害者にも声をかけてはいけない」と誤解されている面もある。これは賢い犬が、目が見えない人を道案内していると誤解している人が多いためだ。盲導犬は通行人や自転車などをよけて歩くが、道順を覚えているのはあくまで視覚障害者。このため盲導犬を連れていても道に迷うことがあり、声をかけてほしい場合もあるが、まだ、そこまで理解は進んでいない。

さらに理解が及んでいないのは、杖の代わりとなって起立を助けたり、手の代わりとなって物を取ったり、ドアを開けたりする介助犬や、生活の音に反応して聴覚障害者に知らせる聴導犬だ。介助犬は全国に60頭、聴導犬は40頭と、1,067頭もいる盲導犬と比べても圧倒的に少ない。また、ラブラドールやゴールデン・レトリバーといった中型犬に犬種が限られる盲導犬と違って、介助犬には一部雑種が使われ、聴導犬の多くは小型の雑種であるためペットと見分けがつかない。このため飲食店等における入店拒否が後を絶たないのだ。

聴導犬を連れている聴覚障害者は、「なぜペットを連れて、ここに来たの」などと盛んに話しかけられるが、何と言われているかわからないし、また、説明できないのでとても困っているという。 ところで、補助犬の病院等への立ち入りについては衛生面から制限されることが多いが、公衆衛生学の専門医による、「補助犬 より人間の方がよほど不潔、人が普通に立ち入れるところはまったく問題ない」との発言には、目から鱗が落ちた思いだった。

(『日盲社協通信』編集部)

 

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